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フェニックスみたいなバンドに、USAのメインストリートは似合わない。ヨーロッパから世界へ飛び出そうと躍起になるアーティストは皆、ABBAをはじめ、押し並べて、白人系アメリカ人的なサウンドを出したがるが、ベルサイユ出身のこのインディ・ポップ・グループは、欧州のエレガンスを放っている。なのに全米を制覇した。2009年に発表した4作目『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』と、その小粋なヒット曲「リストマニア」や「1901」は、古きヨーロッパを気高く歌いつつアメリカで“ラジオ/テレビCM/ウェディング/DJ”の売れ線ルートをアッという間にひとめぐりしてしまったのだ。そんなフェニックスの成功は、大観衆を沸かせる70年代ロックや80年代ニュー・ウェーブへの愛と、21世紀らしい艶やかさや失せることのない洗練とのバランスにある。喩えるならば、ELOとダフト・パンクがルイ14世の宮廷でシャンパン・ファイトを繰り広げているようなサウンドだ。
前作同様に『バンクラプト!』も、星の彼方へ滑走するシンセ、歪んだギターの揺らめき、小気味いいドラム、そして青い目のトーマス・マーズが紡ぐ吸い込まれそうなヴォーカルが満載だ。往年のヒット「ウォーキング・オン・サンシャイン」並みに軽快な「ドント」にしても、より重厚に抑えた「クロロフォルム」にしてもしかり。だが、「1901」や「リストマニア」路線の曲を探している人は、即、フランス領事館に苦情を言いたくなるだろう。新作は敢えて、緻密に作らずに、ホットでパワフルなポップというよりも、気品のある幻想的なグルーヴに彩られている。謎めいて陰りのあるムード。『ヴォルフガング〜』のスマートな外観に呆気に取られているうちは気づきにくかった、アンニュイな情感がそこにはある。
そして飛び出すファースト・シングル「エンターテインメント」。アジアンなキーボード・メロディに、タムの轟きがほとばしる。だがマーズは、楽しみを打ち切って“ラウドなボリュームを低く、低く、低く”と歌う。自分の音楽を、あるいは世界そのものをシャットアウトするかのようだ。7分近い「バンクラプト!」にいたっては、延々と悲愴でアンビエントな空気を漂わせている。気だるいキーボードとマイクロハウス的な電子音が支える歌詞は、まるで離婚訴訟にまつわる淡々とした答弁だ。“裁判が始まり、公正な裁きが下された”とは穏やかじゃない。
マーズの歌詞は時として、“ロスト・イン・トランスレーション”かと言いたくなるほど通じにくいが、苦悩がにじみ出ているのは明らかだ。「S.O.S. イン・ベル・エアー」もすべてを引き寄せるミラーボールのように始まるものの、マーズが“すべての衣裳のすべてのパーツが盗まれてなくなってる”といきりたつ。別の曲では、“北欧産レザー/ドラッカー・ノワール/偽りの富に、忘却の物語”と歌う。LAかパリあたりの、思いきりシックでとびきりオシャレなパーティで投げかけた、鋭い視線の先にあったさまざまな場面の切れ端だろうか。
高級感とロックンロールを融合するフェニックスは、ザ・ストロークスやデュラン・デュランや60年代のザ・ローリング・ストーンズを彷彿させる。そもそも彼らにとってのロックンロール自体に、かなり高級感があると言ってもいい。マーズの歌い方は、スイートの「愛が命」と、エールの「セクシー・ボーイ」と、ザ・ストロークスの「ラスト・ナイト」との間のスイート・スポットを探ろうとしているようにも感じる。だがこのバンドに火が点いたらもう、これらのアーティストとも立派に張り合える。「トライング・トゥ・ビー・クール 」が醸し出す純金のグルーヴに乗って、マーズが“ミント・ジュレップのテストステロン”で興奮している“パートタイムの聖なる独身男たち”を呼び覚ます。いったいどういう意味かって? そんなことはセーヌに流して忘れよう。何であれ、フェニックスの音楽をギンギンに踊らせる退廃的なドライヴにピッタリじゃないか。